FASへ転職すると「土日も毎週働くのでは」「休みが取れないのでは」と不安になる人もいるでしょう。
結論から言えば、FASだから休日がないわけではありません。大手FASの公式採用情報には、土日・祝日を休日とする制度が明記されています。 ただし、M&Aや事業再生はクライアント、相手方、入札、契約など外部のスケジュールで動くため、案件の局面によって休日対応が発生する可能性はあります。
したがって転職前は、次の3つを分けて確認することが重要です。
- 制度上の休日がどう定められているか
- 実際に休日対応が起きるのはどの案件・フェーズか
- 休日対応後に代休や稼働調整ができるか
「FASは激務らしい」という口コミだけでは、この3点が混ざってしまいます。
まず公式情報を見ると、FASにも土日休みの制度はある
PwCアドバイザリー合同会社の中途採用募集要項では、勤務時間をフレックスタイム制・標準労働時間1日7時間とし、休日を土曜、日曜、祝祭日、年末年始などと明記しています。年次有給休暇は年20日です。
KPMG FASのTurnaround & Restructuring部門の募集要項でも、休日休暇として完全週休二日制(土・日)、祝日、年末年始、年次有給休暇などを掲げています。シニアアソシエイト、アソシエイトには標準労働時間7時間のフレックスタイム制が記載されています。なお、Transaction Services部門は「週休2日制(土・日)」という表記で、部門によって募集要項の文言が異なるため、応募時は対象部門の最新要項を確認してください。
このため、少なくとも「FASには休日制度が存在しない」「土日は原則すべて出勤」と理解するのは正しくありません。
ただし、休日制度があることと、案件中に休日作業が一度も発生しないことは別問題です。そこを次に見ます。
FASで休日対応が起きやすいのは「仕事量」より締め切りの動かしにくさ
FASの業務には、財務デューデリジェンス(FDD)、バリュエーション、M&Aアドバイザリー、事業再生、PMI、フォレンジックなど複数の領域があります。
特にディール系では、自社だけでスケジュールを決められません。
デロイト トーマツのM&Aトランザクションサービスは、買い手側の初期DD、社内検討支援、ストラクチャー検討、DD、最終契約助言、クロージング、PMIなどを提供サービスとして挙げています。売り手側でも基礎調査、セルサイドDD、買い手DD対応、契約助言、クロージング準備、プロセスマネジメントなど多くの工程があります。
つまり休日対応が生じるとすれば、「FASという職種だから毎週忙しい」というより、複数当事者が関わる重要な締め切りの直前に作業が集中する構造が背景にあります。
休日が崩れやすい4つの場面
1. DDレポート提出前
KPMG FASのTransaction Services部門は、M&Aに関する財務デューデリジェンスを職務内容として明示しています。
FDDでは、限られた期間で対象会社の財務情報を分析し、正常収益力、運転資本、ネットデット、会計上の論点などを確認します。追加資料が後から開示されたり、マネジメントインタビューで新しい論点が出たりすると、分析やレポート修正が提出直前へ集中することがあります。
「休日出勤があるか」を聞くなら、年間平均よりDDレポート提出前のチームの動きを聞く方が実態を把握しやすいでしょう。
2. 入札・契約・クロージング前
M&Aは、入札期限、基本合意、最終契約、クロージングなど動かしにくいマイルストーンがあります。
クライアントや弁護士、税務、戦略チーム、金融機関など複数の関係者から修正が入ると、平日に終わらなかった作業を休日に行う場面があり得ます。
特にFAやトランザクション支援に近い業務では、カレンダー上の休日より「案件の締め切り」が優先されやすい局面があることを理解しておく必要があります。
3. クロスボーダー案件
PwCアドバイザリーの募集要項は、プロジェクトによって日本全国または海外の場合があるとしています。PwCのM&Aサービスもグローバルネットワークを利用したクロスボーダー案件への対応を説明しています。
海外案件では、時差により日本時間の夕方以降に会議が入ることがあります。また、日本の祝日と海外の営業日が一致しないこともあります。
ただし「クロスボーダー=必ず休日出勤」ではありません。チーム構成、案件の国、会議時間帯、担当範囲を個別に確認してください。
4. 事業再生・危機対応
事業再生は、通常の計画策定より時間的制約が厳しい場合があります。KPMG FASのTurnaround & Restructuring部門は、事業継続・売却・清算等の戦略オプション検討、私的整理・法的整理などを支援対象として挙げています。
資金繰りや債権者対応など時間制約の強い案件では、休日を含め短期間に判断材料を作る必要が生じる可能性があります。
「休日出勤あり」より重要なのは回復できるか
FASの働き方を比較するとき、休日対応が一度でもある会社を除外するだけでは判断しにくい場合があります。
見るべきなのは次の4点です。
- 休日対応は年間を通じて常態化しているのか
- 特定の案件フェーズに集中しているのか
- 休日作業後に代休・始業調整を取りやすいか
- 忙しい案件が終わった後に休暇を取得できるか
例えば、年に数回の重要局面で休日対応があり、その後に休める環境と、毎週のように予定が崩れる環境では負荷がまったく違います。
転職面接では「土日は休めますか」とYes/Noで聞くより、直近の具体例と回復方法まで聞きましょう。
労働時間のルールも確認しておく
一般の労働者に適用される時間外労働について、厚生労働省は上限を原則月45時間・年360時間とし、臨時的な特別事情がある場合にも年720時間以内、単月100時間未満(休日労働を含む)などの上限を設けています。
また、法定休日に労働させた場合には割増賃金のルールがあります。
ただし、個々の労働者にどの制度が適用されるかは、契約、職位、働き方などによって異なります。求人票の「フレックス」「固定残業」「管理監督者」などを見たときは、名称だけで判断せず、オファー時に条件を確認してください。
FASの休日を見抜く7つの質問
1. 直近3カ月で休日対応が必要だった案件は何件ありましたか
平均残業時間より具体的です。「繁忙期はあります」という抽象回答を避けられます。
2. 休日対応が発生しやすいのはどのフェーズですか
DD、契約前、クロージング、再生案件など、理由が分かれば自分が許容できる忙しさか判断できます。
3. 土日に作業した場合、翌週の稼働はどう調整しますか
代休、在宅、始業時刻調整など、回復の仕組みを確認します。
4. 一人が同時に何件の案件へ入りますか
休日が崩れる原因は一案件の難しさより、複数案件の締め切りが重なることにある場合があります。
5. 若手とマネージャーで休日対応の頻度は違いますか
若手は分析・資料作成、マネージャーはクライアント対応やレビューで負荷の種類が違います。自分が応募する職位について聞きます。
6. クロスボーダー案件の会議時間帯はどうなりますか
海外拠点とどの時間に会議するか、休日をまたぐ対応があるかを確認します。
7. 有給休暇は案件間で計画的に取れますか
制度上の付与日数だけでなく、実際の取得方法を聞くことが重要です。
サービスライン別に「休日が読みにくくなる理由」は違う
FASの働き方を一括りにしないためには、自分が応募するサービスラインまで分けて考える必要があります。
| サービスライン | 負荷が上がりやすい局面 | 休日確認で聞きたいこと |
|---|---|---|
| FDD | 資料開示後〜レポート提出 | DD期間、同時案件数、レビュー体制 |
| FA | 入札、交渉、契約、クロージング | クライアント・弁護士との休日連絡頻度 |
| バリュエーション | 取締役会・会計・取引の期限前 | モデル・レビューの締め切り設定 |
| PMI | Day1、統合計画、重要施策の開始時 | 常駐有無、会議時間、長期案件の稼働 |
| 事業再生 | 資金繰り、債権者交渉、再生計画 | 緊急対応の頻度、バックアップ体制 |
| フォレンジック | 不正・危機発生後の初動 | 緊急案件の呼び出し体制、出張頻度 |
この表の意味は「どのサービスが一番楽か」を決めることではありません。
例えばFDDは短期間で作業が集中しやすい一方、PMIは長期プロジェクトになることがあります。事業再生やフォレンジックでは予測しにくい緊急性が負荷になります。自分が苦手なのが長時間労働なのか、予定変更なのか、長期出張なのかで相性が変わります。
「年間休日」だけではFASの実態を判定できない
求人票には年間休日数が書かれる場合もありますが、数字だけでは次のことが分かりません。
- 休日出勤した日の代休をいつ取れるか
- 有給休暇を案件中にも取れるか
- 案件間に長めの休暇を取る文化があるか
- マネージャーが休暇取得を調整しているか
- 休日中のメール・チャット確認を求められるか
特にプロフェッショナルサービスでは、制度とチーム運用がずれることがあります。
そのため、採用サイトで「土日祝休み」を確認したら、次のステップとして現場社員に運用を聞くのが有効です。
面接で働き方を聞くときの悪い聞き方・良い聞き方
悪い聞き方:「休日出勤はないですよね?」
Yes/Noしか返ってこず、実態が分かりません。また、仕事そのものより休みだけを見ている印象になりやすい聞き方です。
良い聞き方:「直近のDD案件で、最も稼働が上がったのはどの時点でしたか?」
業務理解を示しながら、具体的な忙しさを聞けます。
悪い聞き方:「ワークライフバランスは良いですか?」
人によって基準が違い、回答も抽象的になります。
良い聞き方:「休日対応が発生した場合、チームでは翌週の稼働をどう調整していますか?」
会社の仕組みとマネージャーの運用の両方が見えます。
良い聞き方:「繁忙案件と通常案件で、一日の働き方はどう変わりますか?」
平均値では消えてしまう「波」を把握できます。
オファー面談で確認する項目
選考中は聞きにくかった細部も、オファーを受ける前には確認しておきましょう。
- 所定労働時間
- フレックスタイムの適用範囲
- 固定残業代・みなし時間外手当の有無
- 休日勤務時の扱い
- 代休・振替休日のルール
- 有給休暇の付与時期
- 出張・常駐の可能性
- リモートワークの運用
- 配属予定サービスライン
- 入社直後に想定される案件
特に「制度はあるが、自分の職位には適用されない」というケースを避けるため、一般制度ではなく自分のオファー条件で確認します。
生活事情がある人は「忙しいか」より予測可能性を見る
育児、介護、通院、資格試験など固定予定がある人にとって重要なのは、総労働時間だけではありません。
例えば月40時間の残業でも予定を前もって組める環境と、月20時間でも直前に夜間・休日対応が入る環境では、後者の方が生活へ影響する人もいます。
面接では、
- 何日前に休日対応が分かることが多いか
- チームでバックアップできるか
- 定期的な個人予定を守れるか
- 案件アサイン時に制約を相談できるか
まで確認すると、自分にとっての働きやすさを判断しやすくなります。
FAS転職は「休日」だけでなく、得たい専門性との交換条件で考える
FASでは、M&A、FDD、バリュエーション、PMI、事業再生など、財務と経営の接点で専門性を積めます。
休日の予測可能性を重視する人には、案件特性による変動がストレスになることがあります。一方、短期間で企業の重要意思決定に関わり、会計・財務の専門性を実戦で磨きたい人には魅力があります。
転職判断では、
この働き方を受け入れることで、2〜3年後に何ができるようになるか
まで考えるとよいでしょう。
応募先を比較する段階では、FAS転職おすすめ企業の選び方でBig4・専門領域の違いを整理できます。制度と実際の働き方の差を見極めたい場合は、M&Aアドバイザリーの評判も参考にしてください。
よくある質問
FASは土日休みですか?
大手FASの公式採用情報には、土日・祝日を休日とする制度が明記されています。PwCアドバイザリーは土・日・祝祭日等、KPMG FASの事業再生部門は完全週休二日制(土・日)等を掲げています。ただし、案件の締め切りによって休日対応が起きる可能性は別に確認が必要です。
FASでは毎週休日出勤がありますか?
一律には言えません。案件、サービスライン、職位、チーム体制で変わります。応募先には「直近で休日対応した案件の具体例」を聞くとよいでしょう。
FDDとFAでは休日の忙しさは違いますか?
業務構造が違います。FDDはデータ開示からレポート提出までの短い期間に分析が集中しやすく、FAは入札・交渉・契約・クロージングなどプロセス全体の外部期限に影響されます。どちらが必ず忙しいとは断定できません。
休日を重視するとFAS転職では不利ですか?
休日そのものを聞くことが問題なのではなく、成果を出すための働き方を理解しようとしているかが重要です。「どのフェーズで休日対応があり、どうリカバリーするか」と聞けば、業務理解のある質問になります。
まとめ|FASの休日は「制度」「繁忙局面」「回復方法」の3点で見る
FASには土日・祝日を休日とする制度を設ける大手ファームがあります。したがって、「FASへ行けば休日がなくなる」と決めつける必要はありません。
一方、M&Aや事業再生は締め切りを自分だけで動かせず、DD、契約、クロージングなどの重要局面で休日対応が生じる可能性があります。
比較するときは、休日制度があるか → 休日対応はどの局面で起きるか → その後に休めるかの順で確認してください。
FASに興味はあるものの、自分が検討している会社・サービスラインの働き方まで比較できていない場合は、コトラの転職支援サービスでFAS・M&A領域に詳しい専門コンサルタントへ相談し、仕事内容と働き方を同時に確認してみてください。