FASへの転職で「おすすめの企業」を探すなら、会社名の知名度だけで決めるのは得策ではありません。FASは同じ会社の中でも、M&Aアドバイザリー、財務デューデリジェンス、バリュエーション、事業再生、フォレンジック、PMI・バリューアップなどで仕事が大きく変わるからです。
結論から言えば、まず見るべきなのは「どの会社が一番か」ではなく、自分がどのディール工程を担当したいか、そのチームが自分の経験をどう評価するかです。
代表的な選択肢には、デロイト トーマツのファイナンシャルアドバイザリー、PwCアドバイザリー、KPMG FAS、EY-Parthenonなどがあります。ただし各社とも提供サービスは広く、配属チームによって必要スキルもキャリアの伸び方も異なります。
まず「FASで何をしたいか」を5つに分ける
FAS転職の比較は、企業一覧を見る前に仕事を分解すると精度が上がります。
| 志向 | 主な仕事 | 相性が良い経験の例 |
|---|---|---|
| M&A実行 | ソーシング、案件推進、条件交渉、ストラクチャリング | IBD、M&A仲介、事業会社M&A、金融 |
| 財務DD | 対象会社の収益力・運転資本・負債等の分析 | 監査、公認会計士、経理、財務 |
| バリュエーション | 株式価値・事業価値評価、モデル作成 | 会計、投資銀行、評価業務、財務モデリング |
| 再生・再編 | 事業計画、資金繰り、再生施策、利害関係者調整 | 銀行、再生、経営企画、会計 |
| PMI・価値向上 | 買収後の統合、KPI設計、業務改善 | コンサル、事業企画、PMO、オペレーション |
PwCのフィナンシャルアドバイザリーでは、買収ターゲットのソーシングから案件推進、ストラクチャリング、バリュエーション、DD統括、条件交渉まで幅広い業務を明示しています。また同社のディールアドバイザリー全体では、M&A、事業再生、インフラを主要領域として掲げています。
「FASに入りたい」だけでは応募先を絞れません。自分が日々やりたい作業を言語化することが最初の選定基準です。
FASの仕事内容や転職要件を先に整理したい場合は、FASへの転職ガイドも参考になります。
代表的なFAS系ファームは何が違うのか
デロイト トーマツ/ファイナンシャルアドバイザリー
公式採用情報では、ファイナンシャルアドバイザリー領域でM&Aコンサルタント/アドバイザー、クライシス領域などの採用情報が公開されています。M&Aだけでなく危機対応や再生を含め、幅広い経営課題に関わりたい人が比較対象にしやすいファームです。
向いているかを見る際は、「大手だから」ではなく、応募ポジションがM&A、再生、フォレンジックなどのどこに属するかを確認してください。
PwCアドバイザリー
PwCアドバイザリーは、M&A、事業再生、インフラを中心としたディールアドバイザリーを提供しています。M&A領域では、戦略から取引実行、さらにバリュークリエーションまでを一体で支援する方向性が示されています。
「DDだけを深めたい」のか、「M&A実行や買収後の価値向上まで広げたい」のかで、見るべきチームが変わります。
KPMG FAS
KPMG FASの経験者採用ページでは、Corporate Finance、Transaction Services、Turnaround & Restructuring、Forensic、Strategy、Financial Services Group、Client Value Analytics、AI Transformationなど複数部門で通年採用を掲げています。
この部門構成からも、同じFASでも仕事内容が一枚岩ではないことが分かります。監査・会計出身者ならTransaction Services、M&A実行志向ならCorporate Finance、再生志向ならTurnaround & Restructuringといったように、自分の経験と部門単位で照合することが重要です。
EY-Parthenon
EY-Parthenonは、戦略、トランザクション、コーポレート・ファイナンス領域のキャリアを掲げています。M&Aを単体の取引としてだけでなく、企業戦略や資本配分と一体で考えたい人にとって比較候補になります。
一方で、戦略寄りとディール実行寄りでは求められるバックグラウンドが変わるため、求人票の職務内容まで確認する必要があります。
「おすすめ企業」は出身職種ごとに変わる
監査法人・会計士出身
財務DDや会計論点との親和性が高い一方、M&A実行や戦略寄りのチームへ行きたいなら、モデリング、事業理解、交渉・案件推進の経験をどう補うかがポイントです。
面接では「会計が分かる」だけでなく、数字の変化から事業上の論点をどう発見したかまで説明できると強みが伝わりやすくなります。
銀行・金融出身
法人融資、LBO・ストラクチャードファイナンス、審査、事業性評価などは、M&Aや再生との接点を作りやすい経験です。
特に再生領域では、資金繰り、債権者調整、事業計画を見る力が評価されることがあります。反対に財務DDへ行くなら、会計・監査の知識をどこまで補えるかを確認しましょう。
コンサル出身
戦略、業務改革、PMI、PMOの経験は、買収後の統合や価値向上との相性があります。
ただし、M&Aエグゼキューションやバリュエーションへ移る場合は、財務三表、企業価値評価、契約・ディールプロセスに関する知識が必要です。単純に「コンサル経験あり」で横移動できるとは考えず、職務要件との差を確認してください。
事業会社の経営企画・M&A担当
買い手側で案件を推進した経験は、FASでも評価材料になります。特に、候補先選定、社内稟議、DD管理、FA・弁護士との連携、PMIまで経験していれば、案件全体を見る力を示せます。
一方で、アドバイザー側では複数案件を並行し、顧客へ成果物を出す働き方になるため、その違いを理解して応募することが重要です。
求人票では「会社名」よりこの7項目を見る
FAS求人を比較するときは、最低でも以下を確認してください。
- 所属チーム:Corporate Finance、TS、Restructuringなど
- 主要業務:DD、FA、バリュエーション、再生、PMIの比率
- 案件規模:大型クロスボーダー中心か、中堅・ミドルマーケットも扱うか
- 顧客層:事業会社、PE、金融機関、オーナー企業など
- 役割:分析中心か、顧客折衝・案件推進まで担うか
- 必要資格・経験:会計士必須か、金融・コンサル経験でも応募可能か
- 入社ランク:現職タイトルがそのまま引き継がれるとは限らない
特に注意したいのが「FAS経験者募集」という求人名だけで判断することです。職務内容を見ると、実際にはDD専任、再生専任、M&A実行専任など専門性がかなり限定されていることがあります。
FAS転職でエージェントを選ぶ基準
FASは求人票だけでは配属チームや案件の違いが読み取りにくいため、転職エージェントを使うなら次の情報を確認できるかが重要です。
- 各社の部門・チーム構成を説明できるか
- 出身業界別に応募可能性を整理できるか
- 同じ会社の複数ポジションを比較できるか
- 面接で問われる専門論点を把握しているか
- 年収だけでなく入社ランク、昇格、案件特性まで説明できるか
- FAS以外のM&Aアドバイザリー、IBD、PEなども含めて比較できるか
M&A領域全体から応募先を広げたい場合は、M&A転職のおすすめ先と選び方も合わせて確認すると、FASだけに絞るべきか判断しやすくなります。
また、FAS入社後の出口まで見ておきたい場合は、FAS経験者の主な転職先も比較材料になります。
選考前に作る「応募先比較シート」
3〜5社へ応募するなら、会社紹介を並べるだけではなく、次の項目を一枚にまとめてください。
| 比較項目 | A社 | B社 | C社 |
|---|---|---|---|
| 応募部門 | |||
| 主業務 | |||
| 自分の経験との接点 | |||
| 不足スキル | |||
| 希望する案件 | |||
| 3年後に得たい専門性 | |||
| 面接で確認する点 |
この表を作ると、「ブランドは魅力的だが自分がやりたい仕事と違う」というミスマッチを減らせます。
FAS転職でよくある失敗
有名ファームだけを横並びで受ける
会社単位で志望動機を作ると、「なぜこの部門なのか」が弱くなります。ファーム名ではなくチームの仕事から逆算してください。
DDとM&Aアドバイザリーを同じ仕事だと考える
どちらもM&Aに関わりますが、必要スキルと日々の作業は異なります。財務分析を深めたいのか、案件全体を推進したいのかで選択が変わります。
年収だけで転職先を決める
FASでは、入社ランク、担当領域、案件の種類が次の転職市場価値に大きく影響します。目先の提示額だけでなく、2〜3年後に何を実績として語れるかまで確認しましょう。
「M&Aに興味がある」で志望動機を終える
FASでは専門領域が細かく分かれます。自分の過去経験のどこを使い、どの業務で価値を出したいかまで具体化する必要があります。
FAS転職のよくある質問
Q1. Big4系FASならどこでも同じ経験ができますか?
同じではありません。各社でサービス構成が異なり、さらに社内のチームによって担当領域が分かれます。会社名より応募部門と職務内容を確認してください。
Q2. 公認会計士でないとFASへ転職できませんか?
一律ではありません。財務DDなど会計専門性が強く求められる職種は会計士経験と親和性が高い一方、Corporate Finance、再生、戦略、PMIなどでは金融・コンサル・事業会社経験が評価される求人もあります。個別求人の必須条件を確認する必要があります。
Q3. FASとM&A仲介のどちらがおすすめですか?
仕事内容が異なるため、希望次第です。FASはDD、評価、M&A実行、再生など専門サービスが中心です。M&A仲介は案件開拓やオーナー経営者との折衝など営業要素が強いポジションもあります。違いを理解して選びましょう。
Q4. FAS転職では何社くらい比較すべきですか?
数の正解はありません。重要なのは、同じ会社でも複数部門を比較し、自分の経験が最も生きるポジションを見つけることです。応募数を増やすより、チームごとの違いを理解するほうが優先です。
コトラの公開求人から確認できるポイント
2026年8月23日時点で確認したコトラの公開求人では、PE向けに投資前から投資後まで、戦略・財務分析・価値向上支援を担うFAS求人が公開されている。また、M&A後のPMI、シナジー分析、ガバナンス・業務設計等を担うFAS求人が公開されている。
この2件は市場全体の平均や成功確率を示す統計ではありません。この記事では、FASを企業名だけで選ばず、投資前/投資後、DD、Valuation、PMI、再生など自分が積みたい機能で求人を比較するという判断に使います。求人票は更新・終了するため、応募時には最新の募集要項を確認してください。
出典方針:この節ではKOTORA JOURNALやKOTORA noteなどの一般解説記事を根拠にしていません。個別求人原票と外部一次情報を優先しています。
まとめ:FAS転職のおすすめは「会社名」ではなく担当領域で決める
FAS転職では、Big4系をはじめ有力な選択肢が複数あります。しかし、転職後の満足度を左右するのはブランド名より、どのチームで、どのディール工程を、どの立場で担当するかです。
まずM&A実行、DD、バリュエーション、再生、PMIなど希望領域を決め、次に自分の経験との接点と不足スキルを整理してください。そのうえで各社の求人を部門単位で比較すると、応募先を絞りやすくなります。
現在の経験でどのFASポジションが狙えるか、Big4系と独立系・他のM&A関連職をどう比較すべきか確認したい方は、コトラの転職支援サービスでFAS・M&A領域に詳しい専門コンサルタントへ相談できます。非公開求人も含め、自分の経験と担当領域が噛み合う選択肢を確認してみてください。