投資銀行でM&Aや資金調達を経験した後、独立してM&Aブティックやフィナンシャル・アドバイザリー(FA)を立ち上げる道はあります。
ただし、独立の成否を分けるのは財務モデルや案件執行のスキルだけではありません。会社員時代には組織が提供していた案件獲得、信用、顧客ネットワーク、法務・コンプライアンス、採用、資金繰りまで自分で持つ必要があります。
独立を検討するなら、「案件を回せるか」ではなく、継続して案件を獲得し、組織として品質を担保できるかまで確認することが重要です。
投資銀行経験者の独立には主に3つの形がある
1. M&Aブティック・独立系FAを立ち上げる
最もイメージしやすいのが、M&Aアドバイザリーに特化したブティックです。
大手投資銀行のように幅広い金融商品を扱うのではなく、M&Aや特定の財務アドバイザリーに集中するモデルです。
独立後は案件のソーシングから提案、バリュエーション、デューデリジェンス支援、交渉、クロージングまで、少人数で広く担う可能性があります。
2. 既存ブティックで経営側に近い経験を積んでから独立する
大手投資銀行から直接起業するだけが選択肢ではありません。
一度、小規模なM&Aブティックや独立系金融機関へ移り、
- 少人数での案件運営
- オリジネーション
- 顧客との長期的なリレーション
- 採用・育成
- 収益管理
まで経験してから独立する方法もあります。
独立前に持ち運べる経験を整理する際は、投資銀行で身につく市場価値も参考になります。
3. CFO・経営支援とM&A助言を組み合わせる
投資銀行で培ったファイナンス経験を使い、スタートアップやオーナー企業に対する資金調達、M&A、経営管理支援を組み合わせる形も考えられます。
この場合も、具体的に提供するサービスによって必要な体制や法規制の確認事項が変わるため、開業前に専門家へ確認する必要があります。
独立前に身につけたいのは「エグゼキューション」より「オリジネーション」
若手バンカーは、企業分析、バリュエーション、財務モデル、ピッチブック、DD、契約交渉支援など案件執行の能力を磨きやすい環境にあります。
一方、独立後に最も大きな差になりやすいのは、仕事そのものを獲得する力です。
コトラの過去掲載求人(求人ID 1452045、2026年9月9日時点で募集終了)では、仕事内容としてM&A、資金調達、IPO等に加え、案件オリジネーション、エグゼキューション管理、企業とのリレーション構築が挙げられていました。
独立を視野に入れるなら、会社員のうちから次の経験を増やす必要があります。
- 経営者やCFOとの関係構築
- 新規提案の作成と受注
- セクター内での評判形成
- 買い手・売り手候補のネットワーク
- 弁護士、会計士、税理士など外部専門家との連携
- ジュニアメンバーの採用・育成
「案件が来れば完遂できる」から、「案件を作り、受注し、完遂できる」への移行が独立準備の核心です。
独立後に増える仕事はM&A実務以外の方が多い
起業すると、バンカーとしての仕事以外にも経営者としての仕事が増えます。
| 領域 | 独立後に必要になること |
|---|---|
| 営業 | 見込み顧客開拓、紹介ネットワーク、提案 |
| 品質管理 | レビュー体制、利益相反管理、情報管理 |
| 人材 | 採用、評価、育成、外部専門家との連携 |
| 経営 | 固定費管理、報酬設計、キャッシュフロー管理 |
| ブランド | 実績、専門領域、経営者からの信頼形成 |
| 制度対応 | 提供サービスに応じた法令・ガイドライン確認 |
大手投資銀行では法務、コンプライアンス、IT、人事、経理など専門部門が支えてくれます。独立後は、それらを自社で構築するか外部へ委託しなければなりません。
中小M&Aを扱うなら登録制度とガイドラインも確認する
日本で中小企業のM&A支援を行う場合、実務面だけでなく制度面の確認も欠かせません。
中小企業庁は2021年8月に「M&A支援機関登録制度」を創設しています。2026年度公募では、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠について、仲介手数料やFA費用を補助対象にするには、登録されたM&A支援機関による支援であることを要件としています。
これは「M&Aアドバイザーとして独立するには一律にこの登録だけで足りる」という意味ではありません。証券業務、税務、法務など、実際に提供するサービスの範囲によって確認すべき規制は異なります。
独立前には、自社が何を受託するのかを具体化したうえで、弁護士などの専門家や関係当局へ確認することが必要です。
独立に向いているかを判断する7つの質問
次の質問に具体的な答えがあるか確認してみてください。
- 自分に案件を相談してくれる経営者・投資家がいるか
- 自分の名前で提案を受注した経験があるか
- 特定業界や取引類型で明確な強みがあるか
- 案件全体を責任者として管理した経験があるか
- ジュニアを採用・育成できるか
- 数カ月案件が取れなくても運営できる資金計画があるか
- コンプライアンスや情報管理の体制を設計できるか
「いいえ」が多い場合でも、独立を諦める必要はありません。むしろ、今の会社や次の転職先で何を取りに行くべきかが明確になります。
独立前の転職では「将来の経営者に必要な経験」を取りに行く
独立を長期目標に置くなら、次の転職先をブランドや年収だけで決めない方がよいでしょう。
たとえば、
- 自分でクライアントを持てる
- 案件獲得に関われる
- M&Aを一気通貫で担当できる
- 経営者と直接折衝できる
- 少人数組織の運営を学べる
といった環境は、独立準備として価値があります。
独立後も価値が残る経験を考える際は、IBDの将来性も参考になります。独立では、資格そのものより顧客獲得力と実績の再現性が重要です。
まとめ|投資銀行からの独立は「案件を取れる人」への転換が鍵
投資銀行の経験は、M&AブティックやFAとして独立するうえで強い土台になります。しかし、会社員時代のエグゼキューション能力だけでは事業は続きません。
独立前に確認したいのは、
- オリジネーション
- 経営者ネットワーク
- 案件責任者としての経験
- 採用・育成
- 品質・コンプライアンス管理
- 事業としての資金計画
です。
今すぐ独立するか決めていなくても構いません。将来の独立を見据えて、次にどのポジションでどの経験を積むべきか整理したい場合は、コトラの転職支援で投資銀行・M&A領域の専門コンサルタントに相談し、現在の経験と求人で得られる役割を照らし合わせる方法があります。